寄稿文

 本ページは、日本各地で気候変動緩和の活動に取り組んでいる方から、当研究会にお寄せいただいた寄稿文を掲載するページです


■ ご寄稿いただいた 、ケンジ ステファン スズキ(日本名:鈴木健司)様は1944年岩手県生まれで、1967年からデンマーク在住です。日本とデンマークの架け橋として、研修・講演活動など情報発信を行っています。社会起業家、環境活動家、S.R.A.Denmark代表、「風のがっこう」代表、風車運営会社2社の代表としてご活躍です。今年の10月に来日され、北海道襟裳岬(えりも町)訪問は地元テレビで大きく取り上げられました。「風のがっこう」ホームページに投稿なされた訪問記の転載をお願いしましたところ、快くご許可いただきました。


2024.11.6 受理

えりも町を訪ねて思ったこと

「風のがっこう」代表  ケンジ ステファン スズキ(Kenji Stefan Suzuki)








 筆者は10月1日から30日まで訪日してきました。訪日の最大の目的は襟裳岬への旅でした。筆者は1991年からデンマークの風力発電の対日輸出に関与し1993年3月石川県の松任市にデンマーク風力発電機1号機を納品以来、2002年7月に退職するまで風力発電機の対日セールス・マネージャー職に就いていました。この間、襟裳岬の強風についてはデータで知り、聞いてもいましたが、どれだけの風が吹いているのか, 体が動ける内に, 体験したいと思い計画を立てました。
 そして10月3日から10月5日の 2泊3日の日程を組み、北海道放送の取材班の支援を得て、えりも町から襟裳岬を訪ねてきました。襟裳岬を訪ねたのは10月4日でその日は強風が吹き, どれだけの風が吹いたのか翌日教えて頂ただきました。それをもとに10日4日24時間の平均風速を計算しましたところ秒速14.4メートルという数値が出ました。
 筆者は風力発電事業に参入し30年以上関与し、居住しているデンマークはもちろん、イギリスのウインドファーム他、ドイツ、オランダ、イタリアのウインドファームを視察・見学していますが、襟裳岬で体験した風に当ることは無く、強風に感動しました。理由は襟裳岬には膨大な風力エネルギーが存在することが解ったためです。どれだけの風力エネルギーがあるか、10月4日一日当たりの平均風速14.4m/s(秒速)は風力発電機の定格出力の風速ですが、例えば定格出力(発電機の定盤値)400kWですと1日当たり9,600~10,000kWhの発電が出来るという風です。同じような風が年間100日吹いた場合、百万kWh (10,000×100日) の発電量に値する風が吹いているということです。
 襟裳岬には小型の風車が数多く設置されていましたが、増速機の搭載が無い直流の10kW風車でした(確認はしていませんが)。恐らく大量の電流を流せる仕組み(ケーブル容量)が出来ていないためだと思いました。
 2024年のえりも町の人口数は約4100人ですが、襟裳岬の風はなくなることは無いと思います。そんなことから、これから先何年かかろうとも襟裳岬の風を利用することで町の活性化が図れるのではないかと思ってきました。何故ならば、風力エネルギーはその場所における資源で、唯一火力発電や原子力発電と違うのは、安定した発電が出来ないということですが、発電に必要な燃料は要らず、発電後の廃棄物も出ないという大きな利点があります。参考までに、もし百万kWhの電力を石炭火力発電所で発電した場合の石炭量、燃やした後に出る公害物資の量を記載しますと以下の表1の通りです。

 表1の数値で見る通り百万kWhの電気を石炭火力発電所で発電した場合、石炭の消費量は約332トン、この石炭を燃やすことによって排出される二酸化炭素の量は約772トン他廃棄物として燃え殻52.3トンがでます。また332トンの石炭を輸入した場合約760万円に当る外貨が使われることになります。このようなことから、風力発電は不安定な発電設備ですが、沢山の利点があります。ネット情報によると、襟裳岬の風速と風量は秒速10メートル以上の風が吹く日が年間を通し290日あると言われており、膨大な風力資源があるということが解りました。
 そんなことで、今後何十年かかろうとも、襟裳岬の風力エネルギーを利用するため、送電線を補強し、えりも町の人たちの経済的発展に繋がるような政策を採り入れることではないかと思いました。


■河野仁から杉町淳美さんのご紹介
 杉町淳美さんは陶芸作家で、学生時代は植物とそれを取り巻く環境について勉強をされていました。今回は自然エネルギーに関する私たちの論文について、以下の感想をいただきました。杉町さんの陶器は私も愛用しています。コーヒーカップ、ポット、皿に薄いピンク、水色、グリーン、黄色で彩色した作品は「生きる喜び」、図柄の草花は「生命」を感じさせます。白い皿に草の葉を書いた作品は、私の好きな作品です。熊谷守一やマティスの絵画を連想し、「私たちの大事な地球と生き物の命を守る」というメッセージのように感じます。ぜひ杉町さんの素敵なHPをご覧下さい。


2024.9.28 受理

「自然エネルギー と人との共存」-成功事例の驚き!

陶芸作家  杉町淳美(すぎまち あつみ

 河野仁先生とは20年ほど前に大阪のとある陶器まつりにてお会いし、私が農学部出身であることもあり、毎年お会いした折には陶器のこと以外にも色々とお話を聞かせていただいておりました。
 現在奈良県で陶芸作家として主に食器のデザイン・製造をしており、百貨店やギャラリー等で展示販売をしております。
  HP:https://www.eonet.ne.jp/~utsuwaatsu/
  Instagram:https://www.instagram.com/atsumi_sugimachi/

 
 大学時代は陶芸ではなく神戸大学農学部生物環境制御学科にて土壌学を専攻し、植物の根とそれに接する土壌(根圏土壌)の相互作用について研究をしておりました。人工的に作り出すことが難しい天然素材としての土に元来興味をもっておりましたが、その後色々な出会いがあり、現在の職業に至ります。携わるほどに土にはその奥深さや多様性を感じ、益々興味惹かれております。

日本の科学者2024年2月号「山間の町村と小都市における自然エネルギー 利用促進と環境保護,経済循環 ─ 先進施策例と課題」の感想
 拝見して最初に強く感じたのが、メガソーラーや風力発電など、自然エネルギー開発がこんなに受け入れられて上手くいっているところが日本にもあるんだという驚きです。というのも、身近にあるメガソーラー建設計画については反対運動しか聞いたことがないからです。
 報道等で大きく世間に取り上げられた件では、昨年春に就任した奈良県知事が前知事と地元住民との間で合意済みの防災拠点計画を破棄、メガソーラー整備用地にすると発表し問題になったことです。連日県からの地元への説明会がテレビ・新聞にて報じられておりましたが、全くの平行線で収拾がつかない様子に見えました。(こちらは今春、議会の反対によりメガソーラー整備に限らない防災拠点として整備計画を見直すことで議決したようです。)
 また、より身近な件では近隣地域でメガソーラー建設を巡って住民と開発会社との間で裁判にまで発展しているところがあります。2021年に熱海市で発生した無計画な開発による土砂崩れの時に類似の危険がある開発計画として全国紙にも載ったのでご存知かもしれませんが、奈良県生駒郡平群町の山林におけるメガソーラー建築のための山林の切り崩しにより、そのふもとにある多数の住宅地が土砂崩れに飲み込まれる恐れがあることが判明したと記事になりました。それ以前から地域の方は反対運動しておられたようですが、こちらは現在も訴訟中のようです。
 背景や実際それぞれの計画にどのようなメリットデメリットがあるかは十分な判断知識が無い為、両件ともどちらに賛成と言える立場にないのですが、とにかく『メガソーラーなどの開発はどこでも揉める』という印象しかありませんでした。
 しかし後者の平群町の件で反対運動に参加している友人がおり、論文で書いておられたような「自治体と企業と住民が連携して自然エネルギーの利用が成功しているところもあるらしい」と話しましたらとても興味をもってくれました。成功例のように自治体も参加して電力の地産地消等地域に還元されるような仕組みになるような方向なら、その他解決しなければならない事柄はあったとしても上手く行く可能性も出てくるのにと言っていました。
 自然エネルギーの割合を増やしていかなければいけないという方向は自明だと思いますが、このように成功例があることを拝見すると、物事の進め方次第でもっと移行は加速できるのではと思いました。
 私が農学部に在籍していた1990年代はオゾン層破壊について世界中で解決に向けて議論されていました。この時は環境破壊とは不可逆のものであり悪化速度は遅くできても取り戻すことは出来ないと思っておりましたが、様々な分野で解決に向けての努力が行われた結果解決に向かっているようです。地球温暖化問題についてもこのように諦めることなく様々な分野で協力しあうことで解決に向かっていくことができると願ってやみません。
 先生の論文を拝見して、電力の自然エネルギー化と人の共存について新しい見方を知ることができました。諦めること、無関心になることも環境破壊の助長につながると思いますので、今後も関心を持ち続け、できることを探していきたいと思います。



ご寄稿いただいた松葉桂二様は、岐阜県職員として働きながら、欧州三大北壁登攀~チベット自治区7千メートル級未踏峰登頂など難しい登山を成功させています。2015年に定年退職後は水環境関係会社に勤めながら、趣味としてオープンウォーターを泳ぐ、自転車を漕ぐ、走る、この3種目を組み合わせたトライアスロン競技で世界選手権カテゴリー優勝を目標にライフワークを組み立て活動しています。雪氷がある山岳登山と平地におけるトライアスロンではフィールドが大きく異なりますが、どちらにも共通したこととして気象条件を含めた自然環境が実行為に大きく影響し、その環境下で極限に近いパフォーマンスを出すことが求められます。今回、これまで松葉さんが世界の高みを目指す過程で見てきたことを記していただきました。


2024.9.22 受理

気候変動による氷河融解~トライアスロン競技

登山家・トライアスリート   松葉桂二(まつば けいじ)

欧州三大北壁からチベットヒマラヤ未踏峰登山
 はじめまして松葉桂二です。岳友の河野仁さんから寄稿依頼があり、内容は書きたいと思うこと、何でも良いとのことでしたので、登山やトライアスロンを通じて感じたことを記させていただきます。
 清流木曽川と緑の里山に囲まれた山紫水明な岐阜県東濃地方の中津川市に住んでいます。現在69歳ですので、世界保健機関(WHO)の定義からすれば高齢者にあたります。私は社会人になってから登山に夢中になり、ふるさとの中央アルプスから北アルプスの山々に四季を問わず出かけて登り、やがてより困難な氷壁を求めてヨーロッパアルプス三大北壁を目指すようになりました。最初の課題は仏伊国境に千メートル以上の垂壁を持つ、グランドジョラス北壁でした。二つ目の課題はウィンパー著アルプス登攀記で有名なマッターホルン北壁で、岩と雪の急峻な壁を標高4,478mのサミットに向けザイル(命綱)を使い仲間と登りました。最後の課題はハインリッヒ・ハラー著『白い蜘蛛』にもある凄まじい登攀史を残すアイガー北壁で三大北壁完登となりました。そして1995年(40才だった)頃から登山トレーニングとしてMTB(マウンテンバイク)に乗り始めました。ちょうどその時期に長野県王滝村でSDA(セルフディスカバリーアドベンチャー)なるMTB耐久レースが開催されていたため、そのSDA100kmに出場してみるとエリート選手に並び上位でフィニッシュすることができました。ひょっとすると登山より自転車レースに向いていると勘違いするほど夢中になりました。MTBで心肺機能を高めて挑んだ7,000m超のチベットヒマラヤ未踏峰登頂を果たした後の50歳代になると、県庁での職責と単身赴任が重なり長期休暇取得が叶わなくなり、困難なクライミングを追求する活動は休止せざるを得なくなりました。

    (アイガー北壁・白い蜘蛛の雪壁)      (ニェンチェンタングラⅣ峰のセラック帯)

【登山歴】
 1986 – グランドジョラス北壁登攀
 1989 – マッターホルン北壁登攀
 1991 – アイガー北壁登攀 3大北壁完登
 1995 – チベット未踏峰 ニェンチェンタングラⅣ峰 (7,046m) 世界初登頂

○ 定年退職後トライアスロンで世界の高みを目指す
 50歳~60歳まで約10年間の活動休止期間もマラソンやスイミングだけは継続していました。2015年定年退職を機にJTU(日本トライアスロン連合)選手登録をしてオリンピックディスタンストライアスロンやMTBでオフロードを走るクロストライアスロンの国際大会へ挑戦し始めました。海外遠征では時差ボケや気候、食事の違いなどへの対応を含め現地入りしてからの生活も競いの内です。トライアスロンはスイム、バイク、ラン3種目をスタートからゴールまでの移動時間を競うもので〝セルフマネージメントの塊〟と言われ、このスポーツの本番では実力以上の結果を残すことなどあり得ません。第4種目と呼ばれるスイム後の着替えやヘルメット着用、シューズの履き替えなどを含め無駄のない動線で最短を走る戦略をたてます。全体は部分の総和に勝る競技です。予め競技会場に行き水温や風向き気象状況、降雨時を想定したコンディション対策などアウェーハンデ克服に必要な情報収集をおこなうことも大切です。レースでは各国代表選手が激しく競いながらフィニッシュラインを目指します。結果を求めてトレーニングを重ね準備をした遠征での入賞は喜びもひとしおですが、国際試合で競技者同志が相互理解を深め人種、文化、言語、宗教を越え多様性を尊重しあうことも重要と感じています。紛争のためスポーツで競うことができない国や地域のアスリートたちがいる世界では、改めて文化が異なっていても国籍などを気にせず高みへ向けて競い合うことの尊さを再認識させられています。

【競技歴】
 2016 – JTU Triathlon 60-64カテゴリーランキング 1位
 2017 – ITU日本代表公費派遣 世界選手権オランダ
 2018 – ITU Cross Triathlon 世界選手権デンマーク カテゴリー 5位
 2019 – ITU Duathlon Sprint 世界選手権スペイン カテゴリー 優勝
 2020 – IRONMAN 70.3 Triathlon タイランド カテゴリー 優勝
 2021 – World Triathlon WTCS 横浜 カテゴリー 優勝
 2022 – Off-Road Triathlon Xterra 世界選手権イタリア カテゴリー 6位
 2023 – Off-Road Triathlon Xterra アジア選手権台湾 カテゴリー 優勝
 2024 – ITU Cross Triathlon 世界選手権オーストラリア カテゴリー 3位

○ トライアスロン遠征で立ち寄って見た欧州アルプスの変容
 ここ数年トライアスロン遠征で渡欧した折に以前登山したスイスやフランスアルプスに立ち寄ることが何度かありました。30年以上前になりますがグランドジョラス北壁、マッターホルン北壁やアイガー北壁登攀は、インターネットが無かった時代に仲間と共に気象状況や雪氷コンディションを確認するため毎日のように眺めてきた山々です。何年経っても当時の氷河やルート上の雪氷は脳裏に焼き付いていて鮮明に覚えています。しかしながらショックなことに久しぶりに見た氷河や雪氷は気候変動の影響で大きく減少していました。私は雪氷学の専門家ではありませんので定量的、科学的な評価をすることはできませんが、2019年にモンブラン北側に位置するフランス最大のメール・ド・グラス氷河を訪れた際に目にした状況は画像のとおりです。氷河融解による後退はよく耳にしますが、グランドジョラス北壁へのアプローチであるメール・ド・グラスは、後退に加え氷河の深さが約100m浅くなっていました。1986年当時氷河の深さは300mとされていましたが現在は200mです。また今年のアイガー北壁の氷雪は登ることができないと思えるほど消失しており、我々が登攀したルート(赤い破線)上の岩壁も一部が崩落していました。僅かな気候変動で大きく影響を受ける山岳氷河融解は炭鉱のカナリアとも言われ、海水温上昇による膨張と同じく、海面上昇にも影響を与える地球温暖化の証です。アルプス山間部にある氷河は今のペースだと30年後には失われる可能性があるという衝撃の研究結果もあるようです。

         (氷河の深さが約100m浅くなったメール・ド・グラス)

         (氷雪が消え岩壁一部が崩落しているアイガー北壁)

○ 屋外スポーツを考慮するとき、気候変動の影響と対策は優先課題
 トライアスロンは屋外でおこなう夏の持久系スポーツです。私はこのスポーツに情熱をもって取り組みはじめて約10年が経過しますが、気候変動による競技者への影響が気になっています。特にこの数年、猛暑の夏が続き熱中症の危険性が高くなっています。外気温の高い炎天下でもスイムとバイクはなんとかなりますが、最高気温が35度以上の中で暑熱順化できていない人が高強度のランニングをすると熱中症になる危険を伴います。海外に比べても湿度が高い日本に於けるトライアスロンでは、暑さ指数(WBGT)等を参考に暑熱対策のため、スタート時刻を早めて大会を開始しても3種目目のランニング時は気温が高くなる時間帯と重なるため、競技距離を短縮するなど大会主催者も苦慮しています。それでも会場では、選手のみならず競技役員やボランティアまでが熱中症で救急搬送される事態が発生しています。気候変動は全世界共通の環境問題であり、スポーツへの影響も無視できません。トライアスロンを含めたスポーツの持続可能性(サステナビリティ)を考慮するとき気候変動の影響と対策は、優先課題の一つと言えるかもしれません。

○ おわりに (地域の里山を使ったオフロードスポーツ)
 この10年ほど私は自分が実践しているオフロードを走るクロストライアスロン競技のことやトレーニングで走行する里山、高原でのMTBライドなどをSNSポストしてきました。その投稿の自然環境を活かした活動内容が競技大会を主催する関係者の目に留まったことから、オフロード版トライアスロンのXTERRA (オープンウォータースイミング、MTB、トレイルランニングの3種目を連続して行うもので欧米を中心に競技人口が多い)の全国大会を開催するに至りました。私も地元の土地所有者や高原管理者、行政との間に入り故郷での大会成功に向けてお手伝いしています。2025年は5月17日、18日にXTERRA Japan Nenouekogenとして開催される予定です。大会時は70歳になりますが、上位選手にはXTERRA世界選手権への年齢別出場権が付与される大会ですので選手としても出場します。少し前まで高齢者は、庭先でラジオ体操をしているイメージでしたが高齢者がスポーツを行うことは、今ではごく当たり前のことで、とりまく社会環境も大きく変化しています。私はこれからも大人しく静かに暮らすつもりなど、さらさらありません。表彰台を狙わなければトライアスロンを難しくとらえる必要はありません。スイミング、サイクリング、ランニングは日常にある身近なスポーツです。スポーツの価値には個人の心身の健康をもたらすだけでなく地域社会の再生、スポーツツーリズムとしての経済的効果や国際交流の喚起といった社会的意義も含まれています。競争は強い者が勝ちますが、スポーツの普及と発展には、誰が勝ち組ではなく〝利他の心〟を携えて継続していきたいものです。温暖化による過激な気象状況はトレーニングや競技会を危うくしています。しかし里山や地域の森林にある空き空間を利用したオフロードスポーツは夏場においても比較的涼しく実践ポテンシャルを秘めています。これまでやってきた、登山、トライアスロンなどを通じて得たナレッジで持続可能なやり方を考えながら、地域とアスリートがより良くなれるよう貢献していきたいと思います。 #crazykeiji #hanohanolife



ご寄稿いただいた福井冨久子様は、60歳まで企業で働き、環境関係の仕事を通じて地球温暖化を知り、現在「FEC自給圏ネットワーク」の運動に取り組んでおられます。企業在職中のデンマーク研修旅行(2003年)でデンマークの素晴らしさを知り、2017年よりデンマーク在住のケンジステファンスズキ氏の「風のがっこうデンマークたより」のHP作成や、情報発信への協力を続けておられます。現在、滋賀県高島在住で、お仲間と米作りや再生可能エネルギーを普及する活動に取り組んでおられま


2024.9.10 受理 

わが町の県境に風力発電計画が~反対かチャンスか~ 

FEC自給圏ネットワーク  福井富久子(ふくい ふくこ)

1.市民が再生可能エネルギーへ積極投資する時代に
 今、身近な若い人たちが、積極的にNISA,イデコなど、少しのお金を「安全」に投資しているのをよく聞きます。また、価値を感じるものへ、サブスクリプションという定額を支払うことで、一定期間受けられるサービスも、人気があるそうです。
 再生可能エネルギーは、リスクがゼロではないが、太陽、風、水という枯渇しない持続可能な自然エネルギーが生み出す電力は、確実に利益を生み出し、一度投資をすれば、長期に利益を得ることができる時代になってきました。
 太陽光発電は、家庭の屋根に設置すれば、30年以上安価に、クリーンな電力を確保することができます。円安、戦争などでさらに価格高騰の可能性の高い、化石燃料や、原発の電力から、家計を助けることができます。
 今後、「2050年までのカーボン・ニュートラル(CO2排出実質ゼロ)」をめざす政府が、2030年までに陸上風力発電を1790万㌔㍗、洋上風力発電を570万㌔㍗増やす目標で、今後さらに、大型風車になり、建設費用が数千億から数兆円規模になり、桁が違います。これらは、多くは、市民にとっては反対運動の対象でしかないのが、最近の状況です

2.わが町の近くに風力発電計画
 滋賀県高島市と、福井県との県境に、風力発電事業の計画があります。概要は、下記の通りです。
 場所:福井県三方上中郡若狭町及び滋賀県高島市
 風力発電の規模:高さ約180メートルの6100kWを17基、出力は最大103,700kW
 事業者:株式会社ジャパンウインドエンジニアリング(JWE)

 風力発電は、北海道、東北に風況が多いので、近畿地方までは計画されることは、多分無いだろうと、他人ごとでしたが、近くの公民館で、環境影響評価法説明会が開催されるとのことで、興味深々で出かけました。意外と多くの市民が参加されていて、びっくりしました。資料をしっかり準備され、グループで参加されている方が多いと思いました。
 事業者の説明の後、質問の時間がありました。私は先に質問しないとできなくなりそうだったので、「地球温暖化の急激に進む今、風力発電の建設は、環境への配慮をするとともに、積極的に進めてほしい」と発言しました。その後、すぐに男性からも、「その通りで、高島市も滋賀県も、反対と言っているが、地球温暖化は深刻で、そんなことばかりを言っている場合ではない」と発言されました。その後、すぐに、女性から「今のお二人は、企業の回し者ですか」ときつく言われて、驚きました。それからは、「渡り鳥」「森林への環境破壊」などを理由に反対意見を5人以上はされたように思います。
 事業者からは、「環境影響評価は、計画として最大規模で行い、見直しもある」との発言がありました。

3.地元の再生可能エネルギー普及イベントで、風力発電の紹介コーナー
 そこで、昨年秋に高島市と共催で開催した「再生可能エネルギー普及」を目指すイベントRe-フェスの中で、風車のことを知る機会として紹介コーナーも設け、事業者ではない、日本風力発電協会、日本風力エネルギー学会に出展していただきました。
 来場者からは、「風力発電のコーナーでじっくりお話を聞きしました。私が期待している洋上風力発電についても、いろいろ教えていただき参考になりました。 滋賀と福井県境の三十三間山の風力発電が今議論になっていますが、自然保護と自然エネルギー開発のバランスをどう取るかは、大事な問題です。このブースの方は、野鳥の会とディスカッションしながら取り組んでいると言っておられるのに少し安心しました。待ったなしの気候危機対策。いい勉強になりました。」との感想をいただきました。
 今後も、風力発電について理解が進むような取り組みが必要だと、思っています。

4.風力発電への反対運動
 しかし、今回の計画だけでなく、福井県にはあちこちに計画があるのですが、フェイスブックでは、「自然を破壊する風力発電は反対」とすべてに反対の意見を掲載される方もありました。
 新聞紙上でも、下記のような、各地の計画の反対運動の記事が出ました。

・風力から命を守る全国協議会結成 国の政策変えるネットワークに 地域のエネルギーのあり方も提言 (2022年5月24日長州新聞・社会)
・陸上の巨大風車建設、強まる逆風 騒音や景観懸念、住民ら反対運動 拡大へ洋上に活路 (2023年5月1 日 神戸新聞NEXT)
・私たちは、なぜ今も、風力発電計画取り止(や)めを言い続けるのか「子どもや孫の世代によりよい自然環境を残すため、風力発電建設計画の問題点を考えてほしい」と呼びかけている。(2023年11月20日 朝日新聞デジタル)
・北海道 タンチョウ営巣地付近での風力発電計画に反対する署名提出(松本英仁2024年8月7日 )北海道の道央地域で繁殖する国の特別天然記念物タンチョウの見守り活動などを行う市民団体「ネイチャー研究会inむかわ」(小山内恵子会長)が6日、大阪ガスの子会社が苫小牧市と厚真町で計画する風力発電事業の中止を求める署名9503筆を両市町に提出した。

 撤退もありました。
・住友林業が津市白山町で進めている風力発電計画を取りやめることが分かった。建設中の2基の風車は撤去する。(日経XTECK 2023.01.30)
・関電に続き日立造船やオリックスも、風力発電「中止ドミノ」(日経XTECK
 2022.08.22)

5.反対運動をどう考えるか。
 この状況について、風力発電計画は、陸上は山の上が多く、問題が多いので、洋上が良いという見方が多く聞かれ、結局、国が目標を立て、企業が計画をたて環境影響評価をし、市民、自治体は反対し、そして企業が撤退することが繰り返されているように思います。
莫大なお金、時間、労力をかけながら、無駄に使っているのではないかと思いました。「再生可能エネルギーの普及ができない」理由をつくり、「原発、化石燃料、その他」を進めることを、実は、国は狙っているのではないかとも思うぐらいです。
 本当に普及を確実にしようとするなら、計画が進まない理由について、対策を立てるべきではないかと思います。再生可能エネルギ-先進国である、デンマークの進め方から学ぶことがあると思います。

6.国の対策は?
① 企業が計画する風車へ、市民出資や、市民参加する
 市民が、再生可能エネルギーのすべてを担うということではなく、企業が計画するにあたって、地元枠を設けて地元の参加を義務付ける、もしくは、地元とともに進めることで、実現可能性も高まるという視点で提案をする事はできないかと思います。
 デンマークでは、農地法との関係では,農場地主には 自己の農地に風力発電機 1 基を建てる権利を認め,また,風力発電機の設置を目的とした 農地の分譲を認めています。また都市の住民の風力発電所への投資者資格では、「風力発電所への投資者は共同所有者を含め 同市町村に過去 10 年間で最低 2 年間居住した成年であること,給与所得者または自営業者として過去 2 年間同市町村に居住した者」 と規定し,このことで,デンマークでは風力エネルギーは地元のエネルギー資源および資産とし住民の投資を促し,風力発電所が国内外からの投資対象にならないよう制限しています。
② 風力発電を建設する場所のゾーニング
 政府の進める市民不在の風力発電計画の「あたって砕けろ方式」で、再生可能エネルギーを2030年にまでに現在の2倍以上という目標を達成できるのか疑問です。今までのように結局は「計画倒れ」ということになりかねません。本当に実現を目指すなら、無駄のないやり方で、進められるように法律も、検討するべきではないかと思います。日本では、乱開発を防ぐ抑制地域条例を作っている自治体はいくつかあるが,岩手県や浜松市のように促進地域のゾーニングを行っている自治体はまだ少ない.これからの課題であると言われています。
 風力発電の先進国デンマークでは、風力発電所の設置場所に関して「建築法」「土地分割法」「環境保護法」「環境保全法」「自然保全法」「航空法」「電波通信法」「農地法」などの法律を整理し,風力発電所を設置して良い場所と設置してはいけない場所(ゾーニング)を早い時期に示しているとのことです。 そして、そのうえで風力発電所は、「電柱」と「航路標識」と同一扱いとしたとのことです。その他詳細に決められていて、発電機の仕様書などの添付書と建築許可申請書を市町村へ申請し、受理した市町村は、「建築法」で規定されている高さ、住宅までの距離などの条件を満たしているか審査を開始し4週間後、アトム(県)へ送り、設置場所について審査する。その審査内容を公開・公示し、4週間の苦情の申し立てを受けるとのことです。

7.おわりに
 「エネルギーの未来は、国まかせにせず、市民が主体性を持って関与する」ことでこそ「普及」につながると言えます。
 原発、火力発電が身近に建設されることは、建設、稼働において、これまでの公害問題、温暖化ガス排出があり、反対することの意義は大きいと思いますが、風力発電は、人類絶滅の危機から、脱炭素社会に貢献することは確かであります。
 原発、火力発電と同じ視点で反対することは、結局、原発、火力発電を肯定することにつながると思います。

英国がイギリス東部ヨークシャー沖に建設している巨大洋上風力発電所プロジェクト
デンマークの国営電力会社DONG Energy



原子力発電問題 全国シンポジウム2024(敦賀 )にご参加された近藤真理子様(河野委員長の知人)からご寄稿いただきました。近藤様は、現在「日本の科学者」の編集委員をなさっています。アースディはまでらこうえん事務局や、公園あそび、育児のサークルなどの地域での子育て支援等経て、現在大和川市民ネットワークの運営委員として、子どもたちとの河川にまつわる様々な活動をしています。この夏は警戒アラートとの戦いで、子ども期のあそびの保障の危うさを肌で感じたとのことです。


2024.9.1 受理

原子力発電問題 全国シンポジウムの見学会に参加して

「日本の科学者」編集委員  近藤真理子(こんどう まりこ)

 日本科学者会議原子力問題研究委員会主催の第39回原子力発電問題 全国シンポジウム2024敦賀の企画の1日目の見学会に参加した。2日間でひとつの目的を達成するであろう企画に1日のみの参加はいささか不真面目ではないかという思いも抱きつつ、勢い申し込んだ次第である。参加のきっかけは、原子力発電所とその地域、街を見たかったということで、不純な動機ですみません、という感じではあるのですが・・
 バスで迎えられ,研究会の委員長自らチャーターバスを運転し、奥様が福井県や敦賀のこと、新しくできた北陸新幹線と駅舎のことという大まかな街のことから、原発のこと、原発にまつわる街の「恩恵」について説明をわかりやすく、かつユーモラスに説明をしてくださった.北陸新幹線が開通をして、たくさんの人がやってくるようになり、新幹線敦賀駅には数々の日本一があるなどというミニ知識も教えていただいた。しかしその一番ということの裏側には、原発マネーや発電所を多く設置されている自治体としての国との関係もあるのかもしれないと思ってしまうのはひねくれているのだろうか.どういうわけか福井県に発電所が集中をしていること、知事の「仕事」は原子力発電所のある自治体だからこそのある種の経済的な活性化を目指すこととなっていることの説明をしていただいた。この2つはおそらく密接な関係があり、小さな町が活性化していきながら原子力発電所はなくならないだろうなということを実感した。しかし小さな町の活性化は、日本中の死活問題であり、発電所の有無に頼る課題ではない。
 見学コースは2か所の資料館と発電所の見学であった。とてもきれいな設備で、原子力発電のことが紹介されていて、女性のガイドの方にいくつか質問をするのだけれど、いまいち答えが明快ではない。いろんな関係性もあり、それを踏まえて検証、説明ができる原発専門の学芸員をおくというのもなかなか困難であろうし、知らないこと、知らされてないことも多いのだろう。学芸員が原子力発電は安全ですと訴えるにしても、3.11の事実がある限り、不用意な発言ができないというのが誠実な学芸員であろう。

 
 きれいな海と空と山、大阪の海とは当然比べものにならないし、日本海特有の美しい海岸と海、そこに立つ発電所、海産物くらいしか産業がなく、土地もある。そこに発電所建設は労働の機会,産業振興としては利点もあるように見えたのであろう。しかし、3.11で明らかににどんな恐ろしいことがおきるのか、どれほど恐ろしいのか、被害の甚大さがすさまじいものであるのかということを目の当たりにしても、静かに再稼働が始められる。被害の大きさを踏まえて、安全対策として巨額の費用を投じた設備を造る。自然破壊も原発の問題ほど声が上がっていないかもしれないが、自然への負担も大きい。決して持続可能な安全な対策ではない。美しい景色と巨大な自然物の違和感を日々見て暮らす人々の思いはどんなものだろうかと思いを馳せる

 
 自身も大阪府堺市に住み,笑い話であるが堺の子の写生は、何をテーマにしても煙突が描かれていると言われて育った。煙突,それは堺・泉北臨海工業地域のもので、空を見れば煙突、時々上がる小さな(おそらく近くで見たら大きい)炎に不安を感じながらも、いつも大丈夫だから大丈夫だよねと「いつも」に根拠なく安心をしてきた。おそらくそれ以上に「いつものように大丈夫」に騙され続け、実際、堺以上の恐ろしい事態を東日本大震災で目の当たりにしてあの大きな発電所を見て何を感じておられるんだろうかと思わずにはいられなかった。

 その後交流会へと続き、駅へ送っていただくのだが、交流会の司会や運営、駅への送り、翌日の他のホテルの宿泊者への対応など、きめ細やかで、温かい空気の流れる時間であった。委員会の皆様、実行委員の皆様本当にお世話になりました。ありがとうございました。



今回の掲載は、当研究会の野委員長が大学で教鞭をとっていた時の教え子であるT.S様から寄せられたものです。委員長の要請に応えてくれました。


2024.5.22 受理

とある公務員の話

市役所勤務  T.S.

 先日(といっても3か月ほど前ですが)、大学・大学院時代にお世話になった河野先生(JSA-ACT委員長)からホームページを立ち上げたので、寄稿文を書いてくれないかとのお話をいただきました。社会に出てから16年(4年ほどフリーターでしたが・・・)、今は公務員として働いています。難しい文章など卒業論文以来書いたこともなく、お断りしようとしていたらなんだかおだてられてしまって、せっかくの機会でありますしお受けした次第であります。
 とはいえ、どんな内容を書けばいいのか・・。というのも、大学院時代は地球温暖化に関心はあったし、風力発電の適正な立地条件の研究をしていたりで、そこそこ浸かっていたわけですが、社会人になってからというもの関心が薄れてしまって、地球温暖化問題を身近に感じるのは、ゲリラ豪雨の時くらいになっています(しかし、今でも風車をみると多少テンションは上がりますが)。読んでくださる方の中には行政と関わりを持たれる方もいると思います。詳しいことは語れませんが、一公務員の思うところを書いてみて、読んでくださる方の少しでも役にたてれば幸いです。

自己紹介
 私は、某中核市に勤める市役所職員で12年目です。もうすぐ第1子を出産予定で、産前休暇をとっています。管理職ではないですが、中堅職員で、ようやく役所の仕事を客観的に考えるようになってきました。
 大学時代は、風力発電の設置場所にデータ解析をやっていました。一番印象に残っている河野先生の教えは、物事の本質を見抜くことという教えで、学生時代は、ニュースからも見抜けるようになれと言われたときに、そんなことはできないと思っていましたが、不思議なもので、40歳目前にやっとそういう風に見れるようにもなってきました。

○市役所でのこと ①図書館の建設
 公務員になった私の3つ目の異動先が図書館でした。全国的に耐用年数が過ぎてきたことや耐震対策により各地で建て替えがよくあり、私の市でもそういう話が出てきたときの異動でした。
 公立図書館というと、大方の共通認識は本を借りることのできる施設であると思います。それ以外は個人差があるような気がします。じめじめした、薄暗い、静寂というイメージを持つ人もいれば、明るい、おしゃれ、居心地がいいというイメージを持つ人もいると思います。同じ機能を持つ施設なのに全国には色んな形の図書館があることを知り、興味深かったです。
 私の生まれた町には町営の図書館がありましたが、公民館と併設されており本の冊数が少なかった(蔵書数約3万冊)ですが、それ以外の図書館を知らないと、その蔵書数でも充分に感じ、背表紙を読むだけで、知的好奇心が刺激されたことを覚えています。今となってみると図書館における地域格差というのがあって、各自治体によって、重要としている施設か否かというのが見えてきておもしろいものです。
 地域格差といえば、図書館勤務時代、新婚旅行で北欧に行く機会があったので、スゥエーデンでふらっと市立図書館に立ち寄りました(特段、有名な図書館ではない)。図書館見学に行こうと思ったのは、北欧の図書館は日本よりも発展しており(施設も運営も)、見習うところがたくさんあるからです。内装はカラフルでインテリアも北欧らしく、おしゃれな図書館というのが第一の印象でした。それよりも驚いたのは、開館時間よりも早く行ったのにも関わらず扉が開いている! 職員と同時にその扉を通り、見学させてほしいと伝えるとノープロブレムとの回答。日本だったらそんなことありえないのでは・・と考えながら、ありがたく館内を視察。親子連れもすでに入っていて、絵本を読んだりしています。おそらく、貸出ができるのは開館時間以降だが、職員がいて開いているなら本は自由に見ていいよというスタンスが基本的なのだろうと感じました。日本でそんなことをすると、発生する問題の責任はどうする、何か(ネガティブな)あったときどうだとかを考えて、またルールができてしまう。こうゆう柔軟さ、羨ましくも思ったり、お国柄を感じたり。地域格差に通ずるものがあるなぁと感じた新婚旅行でありました。
 今ある環境がスタンダードではないということを感じた図書館時代でした。

○市役所でのこと ②農林水産関係
 そんなこんなで、気が付いたら新しい図書館が開館して1年が経ちました。これから運営内容の充実を図るぞと思っていた矢先、人事異動で農林水産関係の部署に移りました。部署の人のほとんどは専門職(土木職)。私の仕事は予算関係などの事務的なことですが、課の主な仕事は農道・水路・ため池の工事・修繕や農業施設の災害対策です。
 この課で太陽光発電と関係のある業務がありました。太陽光発電施設を作るときには県か市の許可が必要ですが、課が管理している水路等ある場合は、許可申請者と協議することとなっていて、年に数件、太陽光発電の業者等とのやりとりがあります。こちらとしては、大学時代、地球温暖化を学んだ身ですので、太陽光発電の話には多少興味があります。太陽光発電の許可を出すのは別の課ですが、こちらの課でその業務に携わっている職員はあまり太陽光発電に関していいイメージを持っていませんでした。それは、設置計画場所の地元の反対が大きな原因だったりします。また市として太陽光発電導入に積極的か積極的でないかの明確な方針・施策がないのもマイナスの感情を産む原因としてあります。そういうところに行政のもどかしさを感じます。数字だけでは意思決定ができない。多くの立場の人の感情を汲み取りつつ最適解を出す作業。数字だけをもとに進めていくことはできず、答えのない判断に日々直面します。いろいろ試してみて、トライ&エラーを繰り返し、施策を実行できればよいのだけれど、どうも失敗してはいけないという風潮がとてもあります。
 ただ、公務員は、ニュースなどで叩かれることも多いですが、意外とアンテナが高くいろんな情報を収集している人が多いです。太陽光・クリーンエネルギーについて同部署の先輩に意見を聞いたら、地元で会社を設立して利益を上げている事例を知っていたり、太陽光の問題点はソーラーパネルの処理をどうするかであったり、こちらが聞けば聞くほどいろいろな情報が出てくる。人によるところは大きいと思いますが、行動を起こしていないだけで、真剣に市の将来を考えている人が多いように思います。

○市役所でのこと ③スタンダードスキルにデータ解析!
 市役所は色々な計画をたて、それに沿って事務を行っています。私も何個かの計画の立案に携わりました。計画を立案するうえで、基本的な事の一つは、現状値と目標値の設定に色んな要素を足しこむことだと考えています。そこで、重要なのは現状を客観的に捉えられるか、目標値を目指すために何をするのか・実現可能な目標値なのか。どの時間軸(立案時~実行期間)での仕事でも必須なのは、データ解析だと思っていますが、できる・できないの個人差が激しい現状です。市役所の入庁時の試験で、法律や経済学はありますが、統計学はなかったように思います。今後必要なスキルになるのではと考えていて、産休中にひっそりと勉強しておこうと思う今日この頃なのでした。

槍ヶ岳 Photo by H.K 2023年6月



初回掲載は、岩手県葛巻町役場勤務の村上 唯様から寄せられたものです。村上様には、当研究委員会の河野委員長が葛巻町における再生可能エネルギー取り組みの現地調査に伺った際に大変お世話になりました。(本ホームページの活動記録「現地調査2022年9月15~18日」を参照のこと)

2023.10.21 受理

エンジョイ葛巻ライフ ~移住して5年を振り返って~     

岩手県葛巻町 村上 唯(むらかみ ゆい)

岩手県葛巻町の魅力に惹かれ移住
 私は宮城県名取市の出身で、岩手の大学へ進学後、ここ葛巻町の役場に就職した。よく葛巻町の人に聞かれるが、どうして盛岡市から車で1時間半もかかるような田舎に来たのか?私が葛巻町の事を知ったのは大学の時である。私は大学の放送部に所属していた。葛巻町は町内全域で自主放送「くずまきテレビ」を視聴することができるが、このくずまきテレビでは町内の行事やイベントの様子をお知らせする「くずまきトピックス」が放送されている。この番組のナレーションを勤めているのが、私が進学した大学の放送部部員であった。私もナレーションの仕事に従事し、これをきっかけに葛巻町との接点ができた。くずまきトピックスでは葛巻町の様々な出来事が取り上げられるので、原稿を読むなかで葛巻町の様子を知ることができた。何よりも町の資源を活かしたイベントが盛りだくさんである事が印象的だ。私の生まれ育った場所は仙台のベッドタウンのような住宅街であったため近所で行われるイベントはあまりなかったように思う。
 盛岡市から葛巻町に行くには車で1時間半かかるのだが、盛岡市から、滝沢市を抜け、隣の岩手町を過ぎると、その道中は山、また山であり、時々カモシカにも遭遇するなど、自然の豊かさを感じる。また、葛巻町は酪農が盛んであるため牛の飼料用のデントコーン畑や牧草地が広がり、その景観はヨーロッパのようで、異国に来たような気分になる。
 さらに、葛巻町では自生する山ぶどうを活かしたワイン造りにも力を入れており、毎年、くずまきワインを楽しむイベントが多々開催されている。学生時代には放送部のメンバーが葛巻町で開催されるワインパーティに招待され私も参加した。そこで、おいしいくずまきワインを味わいながら、参加した方々とのおしゃべりを楽しんだ。とにかく楽しい。こんな楽しい町があるのか、と感じていた。
 すっかり葛巻町のファンとなっていた私は、葛巻町役場で募集していたインターンシップに申し込んだ。インターンシップでは、葛巻町役場の仕事を学ぶほか、葛巻町の三つの第三セクター、(一社)葛巻町畜産開発公社(くずまき高原牧場)、(株)岩手くずまきワイン、(株)グリーンテージくずまきで仕事を体験した。また、町中心部では9月下旬に行われる「くずまき秋まつり」の準備真っ盛りだったので、その準備に参加させていただいた。くずまき秋まつりは、葛巻八幡宮の例大祭にあわせて行われる祭りで、4つの組がそれぞれ山車を引っ張り、町中を練り歩く。このお祭りに向けた準備がインターンシップのなかで一番印象に残った。地域の人が集まって、お祭り本番に向けた山車(だし)の飾りつけ制作、太鼓や笛の練習、祭り1日目の夜に行われる「共演」に向けた、子供たち、お母さん方、中高生それぞれのグループでの踊り練習等に熱心に取り組んでいた。「活気あるコミュニティ」というのはこういうことを言うのではないだろうかと感じた。また、説明してくださった方の「こうした場を通して子供たちは礼儀やコミュニケーションを学んでいく」という言葉が印象的だった。私は、地域の皆で何かを作り上げるとか、近所のいろんな年齢層の人と会話するといった経験がなく育ったので、当時の自分と、葛巻町の子どもたちと比較したら、葛巻町の子どもたちは確実にコミュニケーション能力が高いと感じる。
 こうした経験を通し、もともと人の温かさに惹かれていた葛巻町だったが、ますます大好きになった。その後、葛巻町役場職員の採用試験を応募することとした。
これが私の葛巻町に就職した経緯である。

くずまきライフ1年目
 さて、葛巻町の職員になったばかりの頃は、仕事もプライベートもわくわく、新鮮、楽しい毎日だった。
 役場入庁1年目は農政係を担当。葛巻町は標高が平均で400mあり、平均気温が約8.8℃と冷涼な気候であるため、果物栽培には適さない。主に、ホウレンソウ、野沢菜、葉タバコ、りんどうといった農作物や花きが生産されている。また、特用林産物である、山ぶどうの栽培も行われている。葛巻町では気温が上がりようやく春がやってくるとホットしたと思ったら、5月に急に気温が下がり朝方霜がおりることがあるのだが、これが農家にとってはひやひやものだ。山ぶどうが霜被害にあってしまったという話もあった。また、夏の豪雨による川の氾濫で畑が水没し、葉タバコが被害に遭ったり、例年よりも暖かく害虫の発生時期が早いので早めの防除が必要にも関わらず、対策が遅れてしまい被害が出てしまったり、ということもあり、農政係の仕事を通じて、「農家さんは自然と共に生活があるのだ」と実感した。
 プライベートでは、私は自然が好きなので楽しくてしょうがない毎日だった。葛巻町には馬淵川という一級河川が流れているのだが、実家の近くに川がなかったため、新鮮で、学生時代の友達を呼んでは川遊びをしたり、水生生物探しに明け暮れたりした。ただ少し寂しいのは、夏があっという間に終わってしまうということだ。お盆を過ぎるとすぐにひんやりとした空気になる。

葛巻町内を流れる一級河川「馬淵川」

 お盆が過ぎ涼しくなってくると先ほど紹介した「くずまき秋まつり」の準備が始まる。インターンシップでは1日だけお邪魔させていただいたが、今回は本格的にかだらせて(参加させて)もらった。踊りと太鼓の練習をした後は、そのまま夕食(飲み会)!翌日も踊り、太鼓の練習、山車の飾りつけ、そのまま飲み会!飲み会では、祭りに対する熱い想いや、町民の面白エピソード等を聞き、とにかく笑いが絶えない。お祭り当日は山車を引っ張り町中を練り歩く。山車を引っ張った時の大八車(人形や太鼓を乗せる車輪がついたもの)の「きいい」という音、太鼓や笛の音、音頭上げ等、準備期間中に聞いていた音が、祭り本番で、全て合わさったときには感動した。お祭りは2日間の行程で行われるが、それぞれの晩でも飲み、皆で祭りのあれやこれや語り合った。よそ者の自分をさらっと受け入れてくれる葛巻人の温かさを改めて感じた。

夜のライトアップも素晴らしいです。

くずまき秋まつりの山車の飾りつけは全て手作りです。

 無事お祭りも終わると、一気に寒さが増し厳しい冬がやってきた。1年目はとにかく寒さに耐えるのに必死だ。窓際においていたトイレットペーパーは結露で濡れて凍り窓に引っ付いてしまう。窓にプチプチを張るなどして少し断熱補強をしながら寒さをしのいだ。

くずまきライフ5年経過
 役場に入庁し今年で5年目となった。入庁後2年目からはエネルギー政策に関わる環境エネルギー係となった。葛巻町は「ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち」をキャッチフレーズとしており、ミルク(酪農)とワインとクリーンエネルギーの三つの柱を軸に町づくりを進めてきた。その柱の一つを担当することになり、毎日身を引き締めて仕事に従事している。葛巻町は1999年に「新エネルギーの町くずまき」を宣言している。その内容は、『「天のめぐみ」である風力や太陽光、「地のめぐみ」である畜産ふん尿や水力、豊かな風土・文化を守り育てた「人のめぐみ」を生かして、地球規模の課題である地球環境問題に足下から取り組んでいく』ことを宣言したものだ。同年には、新エネルギービジョンを策定し、様々な新エネルギー設備を他の地域に先駆けて導入してきた。現在、発電設備は、「風力発電」、「太陽光発電」、それと家畜ふん尿からメタンガスを取り出し電気と熱を作る「畜ふんバイオガス発電施設」、間伐材の有効活用を目的に実証実験施設として作られた「木質バイオガス発電施設」等があり、情報発信の場としての役割を果たしている。私は、こうした取り組みを見学に来る視察者への説明や、葛巻町のクリーンエネルギー政策の企画を業務としている。

標高1000mの上外川高原で稼働している風力発電所

クリーンエネルギー(木質バイオガス)発電施設の視察

 令和4年度にはビッグイベント、21回目となる「全国風サミット」が葛巻町で開催された。葛巻町では22年ぶりの開催である。私はその主担当となった。日本の風力発電事業草創期から関わってきた方々とも出会い、その情熱に触れることができた貴重な機会であった。第21回全国風サミットinくずまきの様子については、「2022年(令和4)広報くずまき10月号」にまとまった記事があるのでご覧いただければと思う。
 風サミットの開催や日々の業務の中で感じることは、エネルギーの世界は奥が深く、専門的な分野であるということ。例えば風力発電事業は、普段町では完成した発電所しか見ないが、風車を形作る様々な部品はどこかで作られ、葛巻町に運ばれてきている。私は一度発電機補修作業の現場を見せて頂いたことがあるのだが、職人による手作業もあり、こうした技術があるから風力発電事業が成り立つのだと実感した。他にも表舞台にはあまり出てこないのだが、風力発電所のメンテナンス業務に携わっている方もいる。メンテナンスに従事する方からもお話しを伺う機会があったのだが、葛巻町の風力発電所は標高1,000mもある高原地帯に立っているので冬季はスノーモービルで現場まで行くという事であった。厳しい環境下で作業しているということはお話しを聞くまで知らなかった。このように一つ風力発電のみを見ても奥が深い。エネルギー係4年目にしても分からないことだらけである。
 現在、町が目指している姿は、クリーンエネルギーの恩恵を町民が実感できる町である。例えば、風力発電や太陽光発電を導入することで電気代が安くなり経済的負担が軽減されるという事が挙げられる。しかし、現時点では風力発電が立地し電源構成の再エネ割合増加に貢献したとしても電気代が安くなるわけではない。制度上の難しさもあるのが現状である。だが、ここであきらめないのが葛巻町である。小さな農山村だからこそできることに果敢に挑戦していく。挑戦のタイミングを逃さぬよう、情報収集、知識習得に努めたい。

気候の変化 
 仕事は先に書いた通り充実しているが、プライベートは、というと、こちらも1年目にひきつづき充実している。やはり毎年胸が騒ぐのは、くずまき秋まつりである。(コロナ禍で3年間は規模縮小での開催となった。)今年も9月22日、23日にかけてくずまき秋まつりが行われた。お祭りに関わる人達の温かさは1年目の時から変わらない。しかし、5年という歳月の中で気候は変化しているようだ。5年前は寒い寒いと言いながら山車を引っ張っていた記憶があるが、今年は暑い暑いと言いながら引いていた。 “お盆が過ぎたら寒いです”と葛巻町を紹介していたが、今年はお盆が過ぎても暑かった。会話のなかでも、今年は暑さが厳しいね、熱中症に気を付けなければね、と話すシーンが何度かあった。松茸が出るのも遅い。

毎年9月に行われる薪・牧・巻トリプルまきフェスタにおける「全日本薪積み選手権大会」の様子。森の恵みに触れる貴重な機会となっています。

 気候変動による影響は身近に迫っているのではないかと感じる。特に農家や酪農家、林家は気候変動の影響を直接受ける人たちである。気温が上がることによって葛巻町の酪農(牛のストレスにつながらないか?)にはどんな影響があるか?農作物への影響は?気温が上がることで、害虫が北上し林業へ影響を与える可能性はどれくらい増えるのか?そういった情報を町でもしっかりと把握し、情報発信し、気候変動への影響に対応できるよう準備を進める必要があると感じている。

最後に
 葛巻町がどんな町かイメージいただけただろうか。魅力は書ききれないほどあるので、興味がある方は是非、葛巻町にお越し頂けたら嬉しい。私はこれからも楽しく、いろんなことに挑戦し、素敵なくずまきライフを続けていきたい。

令和4年8月に新庁舎が完成しました。また、乳牛導入130周年の年でもありました。背景に見えるのはカラマツの紅葉です。