■シンポジウム参加 2024年8月24日~25日
日本科学者会議原子力問題研究委員会主催の「第39回原子力発電問題 全国シンポジウム2024敦賀」に参加し、24日に原発(日本原電敦賀、高速増殖炉「もんじゅ」、関電美浜1,2,3号機)を見学し、25日にシンポジウムで講演を行いました。基調講演は下記の3件でした。対面とリモートを合わせて約140名の参加があり、活発な議論が行われました。
・山田耕作(京都大学名誉教授) 「原発の危険性と放射線被ばく」
・河野仁(兵庫県立大学名誉教授)
「温室効果ガスによる気候変動と自然エネルギー、省エネによる対策」
・岡本良治(九州工業大学名誉教授)
「新原子力規制基準で原発は安全になったか」-深層防御の形骸化・矮小化
基調講演の後、9件のポスター発表と4件の一般発表が行われ、原発のない社会づくりのための検証と展望について多面的な議論と意見交換がなされました。
私は原発を現地で見るのは初めてでしたが、やはり実物を見るのは大事です。敦賀湾、若狭湾は海水浴場があり、原発がなければ非常に環境の良いところです(写真)。若い時に敦賀に海水浴に来たのを思い出します。見学会で原発反対運動を進めている敦賀市会議員(共産党)山本貴美子さんの説明では、国からの電源三法交付金の他、日本原電からの固定資産税、道路建設などへの多額の寄附により、ハコモノ行政が続けられ、原発依存体質になっているとのことです。また、敦賀市議会で原発に反対の意見を言う議員は残念ながら日本共産党の議員2人だけとのことです。政府を変え、国の金の使い方を変え、原発を廃止し、自然エネルギーに投資し、地方の産業育成をすれば、福井一帯を風光明媚な素晴らしい観光地にできるのではないかと思いました。 (河野)
■研究会開催 2024年8月14日~15日
JSA-ACT独自企画の夏季研究会を開催した。1日目は、滋賀県伊吹町にある「道の駅 伊吹の里・殉彩の森」会議室にてセミナーを開催した。セミナー終了後、伊吹山登山口にある「ペンションいぶき」に移動し、一泊した。夜に懇親会。2日目は伊吹町メガソーラーと高時川水系の見学会を実施した。
1.セミナー 14日13時から16時
今年11月30日に開催される、JSA第25回総合学術研究集会分科会に向けて、研究集会での発表予定者(JSA-ACTメンバーと招待参加者)による事前討論会として行われた。司会は
河野が行った。尚、時間の関係で予定していた全員の議論はできなかった。
<発表テーマと発表者 >
・滋賀県における省エネ・スマートコミュニティ推進について(左近)
・わが町の巨大風力発電計画-反対運動かチャンスか(福井)
・再エネと福祉の相乗効果 ―社会受容性を高める市民共同発電事業―(今井)
・化学者の気候変動対策への参加(佐藤)
・インターネット学習サイトの紹介(西山)
2.見学会 15日午前
討議翌日に、参加者有志で周辺のエネルギー施設の見学を行った。見学したのは 伊吹町メガソーラーと高時川水系農業用水路小水力発電である。
滋賀県米原市にあった住友大阪セメント伊吹工場が2003年に閉鎖された。その跡地は東京都港区に事務所を置く投資会社に販売されたようで、跡地のうち約267,000m2を使う太陽光発電設置工事が行なわれている。経済産業省の再生可能エネルギー電力固定価格買取制度の事業計画認定情報の掲載にはなく、経済産業大臣の認定はまだと見られる。仮に10m2に1kWの太陽光をほぼ切れ目なく設置した場合、設備容量約26,700kW、最近のメガソーラーの平均設備利用率約16%を適用すると年間発電量3,740万kWh。仮に入札価格が2023年度の入札上限額9.28〜9.5円/kWhとすると年間売電収入約3.5億円、20年間で約70億円になる。このメガソーラーのある米原市において2024年3月までに運転開始した太陽光発電すべての合計が34,305kWなので、市の太陽光を2倍にする規模とも言える。地元でこの規模を一気に設置することは考えにくいが、地域主体が分散型でこの規模を築いていけば、その売電収入も地元で得られ、地域発展に寄与できたと考えることができる。
次は滋賀県長浜市の湖北土地改良区が持つマイクロ水力の見学である。経済産業省の固定価格買取制度の情報では10kWと26kWの発電所が登録されている。高時川から引いた用水路のマイクロ水力で、滋賀県の支援も受けて設置されている。ただし残念ながらこの時期は修理中で発電機は見られなかった。
対照的な再エネ設備で、地域の持続可能な発展、地域に役立つ(「地域に裨益する」などという)再エネによる地域脱炭素、普及制度で乱開発を防ぎかつ地元主体を中心に設置する制度仕組みの必要性を考えさせられたと言える。 (河野・歌川)
■シンポジウム開催 2024年5月11日
5月11日に本委員会が「地方自治体における温室効果ガス削減計画と対策-実行の仕組み作り・市民参加-シンポジウム」を開催した(協賛:気候ネットワーク、日本環境学会、公害・地球環境問題懇談会)。オンラインで34人が参加した。
シンポジウムのねらいは、日本の科学者2024年2月特集「地方自治体主導の温室効果ガス削減計画と対策」の実行のための討論である。5人の執筆者による論点の提起が行われた。
①河野 仁「気候変動と温室効果ガス削減対策-自然エネルギー利用と環境保護の両立」
気候変動は勢いを増しており、温室効果ガス削減対策は急を要する。風力発電やメガソーラー等については、自治体が専門家や住民の意見を取り入れながら、ゾーニングなど計画立案を行い環境保護との両立を図る必要がある。自治体主導の事例として、岡山県西粟倉村、岩手県葛巻町、高知県ゆずはら町をとりあげ、自然エネルギーが村の産業振興に役立てている事を紹介。
②歌川 学「省エネ再エネによる2050年にむけたCO2削減と地域発展」
既存技術とその改良技術の省エネ、再エネ、燃料転換普及対策を検討。 全国でエネルギー起源CO2排出量を2030年に2013年比約70%削減、2035年約80%削減,2050年は既存技術と改良技術で95%以上削減が技術的に可能である。地域の対策可能性点検で3都県の試算を実施。対策は全体として費用効果的で、光熱費と設備費増の合計を全体として削減できる。
③上園昌武「自治体の脱炭素政策をどう改善すべきか」
自治体が脱炭素戦略を描けていない現状を指摘。交通体系の整備、緑地整備、住宅やビルの断熱化等の脱炭素化、地域社会と共存した再エネ普及など都市や地域構造の変革が求められている。地域経済の発展(地域経済循環、雇用創出)や生活の質の向上に繋がる施策が必要。
④豊田陽介「脱炭素社会の担い手と中間支援」
欧州における気候変動対策の担い⼿と中間支援組織体制を紹介。⾃治体が影響⼒を持つ範囲は公共施設、公共交通、各種公共サービスの範囲にとどまる。 市⺠⽣活や事業活動に直接的に関与することは難しい。自治体はシュタットベルケや中間⽀援組織との連携を通じて、その影響⼒が及ぶ範囲を拡⼤させている。⽇本での自治体や都道府県温暖化防⽌活動推進センターによる⽀援のやり方について言及した。
⑤今井絵里菜「政策決定プロセスにおける若者世代の関与」
過去12年間に取り組んだ若者団体による政府の政策決定への関与を分析し、成果を示した。 若者団体同士が連携し、成功事例を共有しながら、より多くの若者の声を届けることが今後の活動の鍵であると述べた。
<討論>福井と滋賀県境にある三十三間山風力発電計画がケーススタディとして取り上げられた。また、学校教育の必要性やネットを使って一般市民との対話を増やす必要性がある発言。大阪府忠岡町議員から温室効果ガス削減計画は公共施設のみで地域の計画は作られていないとの報告があった。 (河野)
■研究会参加 2023年12月9日~12月10日
日本科学者会議東京支部第22回東京シンポジウム(拓殖大学文教キャンパス) がオンライン併用で開催されました。第5分科会「2035年を見据えた気候変動対策の課題と市民社会の役割」(佐川が設置責任者)は、公害・地球環境問題懇談会(JNEP)が共催し、会場14人、オンライン6人で合わせて20人が参加しました。JSA-ACTのメンバーでは、佐川と歌川が報告。
冒頭のJNEP長谷川事務局長の挨拶に続き、佐川が「2035年の電力・エネルギーをめぐる国内外の動向について」を報告。2024年はCOP29に向け、2035年を含む新たな目標を提出することになっており、国内では第7次エネルギー基本計画が出されることから、2035年の目標引き上げについて運動を強めていかねばなりませんが、それらの意思決定に向けて将来世代の意見が重要であることを確認しました。最近、2035年までの電力部門の完全ないし太宗の脱炭素化がG7で合意され、日本でも急速な転換が求められることになります。
続いて、JNEPの奥田さが子さんが、「若い世代や学校現場で気候危機問題を考えるために」と題して、和光中学校・自由の森高等学校、都留文科大学での出前授業の取り組みを紹介しました。4年前は事前アンケートで、「再生可能エネルギーなんて知らない」と答えた生徒が半分もいたけれど、授業を通し、また同世代であるFFFと協働しての授業の工夫もする中で、認識を深め、自分たちに何ができるかを考えはじめるということを、授業後の感想やレポートも示しながら話されました。
Fridays For Future Tokyo(FFF)の田原美優さんは、「若者の気候ムーブメントが目指す社会」と題し、ご自身の思いや取り組みをリアルに交えながらFFFの目的や政策について紹介。「気候正義」をめざす立場から、温暖化の被害だけでなく加害の責任も意識しながらやっていること、街角での対話や参加しやすいデモンストレーションを工夫してがんばっているということでした。質疑では、親の反対、周囲の目をどう感じているかといった議論が盛り上がりました。
産総研の歌川学さんは、「2050 年排出ゼロに向けた脱炭素対策と2035年目標」と題して、日本全体と地域の対策についての報告をされました。日本全国では、既存技術を中心で2030年に2013年比で70%削減、2035年には同80%の削減ができると定量的に示され、国全体では光熱費の削減効果が投資額を大きく上回り、得になる対策であることを紹介。地域は多排出事業所があるかどうかで大きく様子が異なりますが、それぞれの地域で大幅な削減が見込めるということでした。
今回の報告を出発点にして、今後の削減目標の引き上げや具体的な対策を実施させるために若い世代とも協力した取り組みを進めたいと決意を新たにしました。 (佐川)
■現地調査 2023年4月1日
兵庫県宝塚市にある宝塚すみれ発電所第2号を後藤と今井の2名で見学した。目的は市民発電所事業の課題を探るためである。
NPO法人新エネルギーをすすめる宝塚の会の三名の方に、宝塚市内の大林寺の境内に設置された発電所 第2号の案内と共に、これまでの事業のあゆみをご説明いただいた。事業主体は非営利型株式会社宝塚すみれ発電。全部で6つの発電所を宝塚市内で運営している。第2号は、宝塚駅から車で10分ほど山の方に上っていった大林寺の境内、住宅地とも隣接している47.88kWの太陽光発電所。低圧(~49.5kW)の区分では大きい方である。資金は社債という形で出資を募り、銀行の融資も受けた。パネルの空きスペースに、兵庫県の「県民まちなみ緑化事業」を利用してオタフクナンテンを植えたが、2013年の設置以後、管理維持の点で緑化事業は継続が難しくなったとのことだ。
見学後、NPO法人および株式会社のこれまでの活動や、6つの発電所の設置までの経緯のお話を伺った。それぞれ異なる方法で設置場所の確保や資金調達を行っていることから、市民発電所を実施する上でのポイントや課題がよく分かった。共通項を以下に挙げる。
①スキーム・用途
・ソーラーシェアリング(営農型太陽光)は、収穫作業などで市民の参画機会を創出することが可能(第4号:さつまいもの収穫に支援者や学生らが参加)。
・屋根上自家消費で地元産業への貢献、クラウドファンディングによる資金調達(第5号:丹波乳業での中古パネルを用いた自家消費モデルでは、丹波乳業のヨーグルトなどをリターンとして用意しクラウドファンディングに挑戦した)
②設置場所の確保
・自治体との共同事業創出(第3号:宝塚市への働きかけ、市主導の市民発電所設置モデル事業の実現)
・太陽光発電事業へ理解のある事業者との繋がり(第2号:大林寺の建物の屋根上には以前より太陽光パネルが設置されていた)
③採算性
・FIT(固定価格買取制度)の買取価格の低下、現在低圧野立ては10円/kWhと開始時の3分の1以下に(宝塚すみれ発電の場合、6つの発電所は2016年までに稼働)
・自家消費モデルの採用(第5号:丹波乳業での中古パネルを用いた自家消費モデル)
④組織の持続性
・運営形態(宝塚すみれ発電の場合、NPO法人と株式会社で役割を分担)
・草刈りなどのメンテナンス
・資金管理、市民出資の場合の返済業務
(今井)
■研究会参加 2022年11月19日~12月11日
日本科学者会議 第24回総合学術研究集会(大阪・オンライン開催)に参加。B1分科会にて発表。(後藤、歌川、河野、佐藤)
■現地調査 2022年9月15~18日 (参照:JNEPニュース ,No.318 ,7-9pp)
岩手県 葛巻町の自然エネルギーと秋田県の風力発電について調査を行った。
葛巻町は盛岡からNNEに45kmの山間にある。町の人口5,800人(2021年)、面積485km2である。町の面積の85%が森林である。標高約1,000mの上外川高原に28基、合計65.5MWの風力発電がある。年間平均風速8 m/sである。所有者はJ-Powerである。最も近い住宅から2.5km離れており、騒音問題はない。町には固定資産税が入る。山間に風力発電所ができた経緯は、高原で牧畜を行っており、そのために高原まで道路と送電線が作られており、風力発電をする物理的条件が整っていた。この他、町営の太陽光発電503kW が公共施設に電気を供給している。畜糞を使ったバイオガス発電37kWと熱180MJが施設内で使われている。町長が過疎化対策を意識して積極的に自然エネルギーにも取り組んでいるのが印象的だ。葛巻町はミルクとワインとクリーンエネルギーの町として発信している。自治体主導で自然エネルギー導入を進めるモデル自治体と捉えることができる。
秋田県は積極的に風力発電の導入を進めている。ここは日本海側に面しており、冬季の西風が強く、風力発電に適している。現在のところ海岸や山上に風車が設置されているが、更に、秋田県の能代市、由利本荘市、男鹿市、三種町の洋上(海岸から2km~5kmの範囲)で設置計画が進んでいる。一方、にかほ市では風車騒音による被害の訴えが出ている。今回は風車騒音に焦点を当てて、にかほ市の風車騒音について、騒音計を持参して測定を試みた。調査当日は風が弱く、風車の回転が小さいために、音は全く聞こえなかった。
また、にかほ市から能代市の間で海岸線にそって風車の設置状況について写真撮影などを行った。騒音の影響を避けるためには少なくとも1kmのセットバックが必要だが、既設風車については、民家から数百メートル以内にあるものもある。環境省の風車騒音に対する新クライテリア35dB(あるいは残留騒音+5dB)が既設の風車に対しては適用されない事が、風車被害が改善されない理由のように思える。(河野)
■現地調査 2021年4月16日 (参照:JNEPニュース ,No.318 ,7-9pp)
自然エネルギーで村おこしを行っている岡山県西粟倉村(人口1,370人)の現地調査を行った。村は、森の森林資源を使って産業を興し、村で生計が成り立つことを目指している。この15年間に村内で34の事業が生まれ、この11年間に村の子供の人数が20%近く増えている。地球温暖化対策として、化石燃料から風力、太陽光、バイオマス等の自然エネルギーへの転換が求められているが、日本では大資本中心の開発になっており地域に収益がない事、更に自然環境保護、低周波騒音などの問題のために、自然エネルギーの普及が大きな壁に直面している。その中で、西粟倉村は村が主体となり、計画的に村民の収益と自然エネルギーの開発の両方を追求し、一定の成果を出している貴重な例であることが分かった。(河野)
■研究会参加 2020年12月4日~6日
日本科学者会議 第23回総合学術研究集会(東京・オンライン開催)に参加。D1分科会にて発表。(河野、後藤、歌川、佐川)