■ ご寄稿いただいた 福井冨久子 氏は、60歳まで企業で働き、環境関係の仕事を通じて地球温暖化を知 り、現在「FEC自給圏ネットワーク 」の運動に取り組んでおられます。企業在職中のデンマーク研修旅行(2003年)でデンマークの素晴らしさを知り、2017年よりデンマーク在住のケンジステファンスズキ氏の「 風のがっこうデンマークたより 」のHP作成や、情報発信への協力を続けておられます。現在、滋賀県高島在住で、お仲間と米作りや再生可能エネルギーを普及する活動に取り組んでおられま す 。
2024.9.10 受理
わが町の県境 に風力発電計画が~反対かチャンスか~
FEC自給圏ネットワーク 福井富 久子( ふくい ふくこ)
1.市民が再生可能エネルギーへ積極投資する時代に
今、身近な若い人たちが、積極的にNISA,イデコなど、少しのお金を「安全」に投資しているのをよく聞きます。また、価値を感じるものへ、サブスクリプションという定額を支払うことで、一定期間受けられるサービスも、人気があるそうです。 再生可能エネルギーは、リスクがゼロではないが、太陽、風、水という枯渇しない持続可能な自然エネルギーが生み出す電力は、確実に利益を生み出し、一度投資をすれば、長期に利益を得ることができる時代になってきました。
太陽光発電は、家庭の屋根に設置すれば、30年以上安価に、クリーンな電力を確保することができます。円安、戦争などでさらに価格高騰の可能性の高い、化石燃料や、原発の電力から、家計を助けることができます。
今後、「2050年までのカーボン・ニュートラル(CO2排出実質ゼロ)」をめざす政府が、2030年までに陸上風力発電を1790万㌔㍗、洋上風力発 電を5 70万㌔㍗増やす目標で、今後さらに、 大型風車に なり、建設費用が数千億から数兆円規模になり、桁が違います。これらは、多くは、市民 にとっては反対運動の対象でしかないのが、最近の状況です 。
2.わが町の近くに風力発電計画
滋賀県高島市と、福井県との県境に、風力発電事業の計画があります。概要は、下記の通りです。
場所:福井県三方上中郡若狭町及び滋賀県高島市
風力発電の規模:高さ約180メートルの6100kWを17基、 出力は最大103,700kW
事業者:株式会社ジャパンウインドエンジニアリング(JWE)
風力発電は、北海道、東北に風況が多いので、近畿地方までは計画されることは、多分無いだろうと、他人ごとでしたが、近くの公民館で、環境影響評価法説明会が開催されるとのことで、興味深々で出かけました。意外と多くの市民が参加されていて、びっくりしました。資料をしっかり準備され、グループで参加されている方が多いと思いました。
事業者の説明の後、質問の時間がありました。私は先に質問しないとできなくなりそうだったので、「地球温暖化の急激に進む今、風力発電の建設は、環境への配慮をするとともに、積極的に進めてほしい」と発言しました。その後、すぐに男性からも、「その通りで、高島市も滋賀県も、反対と言っているが、地球温暖化は深刻で、そんなことばかりを言っている場合ではない」と発言されました。その後、すぐに、女性から「今のお二人は、企業の回し者ですか」ときつく言われて、驚きました。それからは、「渡り鳥」「森林への環境破壊」などを理由に反対意見を5人以上はされたように思います。
事業者からは、「環境影響評価は、計画として最大規模で行い、見直しもある」との発言がありました。
3.地元の再生可能エネルギー普及イベントで、風力発電の紹介コーナー
そこで、昨年秋に高島市と共催で開催した「再生可能エネルギー普及」を目指すイベントRe-フェスの中で、風車のことを知る機会として紹介コーナーも設け、事業者ではない、日本風力発電協会、日本風力エネルギー学会に出展していただきました。
来場者からは、「風力発電のコーナーでじっくりお話を聞きしました。私が期待している洋上風力発電についても、いろいろ教えていただき参考になりました。 滋賀と福井県境の三十三間山の風力発電が今議論になっていますが、自然保護と自然エネルギー開発のバランスをどう取るかは、大事な問題です。このブースの方は、野鳥の会とディスカッションしながら取り組んでいると言っておられるのに少し安心しました。待ったなしの気候危機対策。いい勉強になりました。」との感想をいただきました。
今後も、風力発電について理解が進むような取り組みが必要だと、思っています。
4.風力発電への反対運動
しかし、今回の計画だけでなく、福井県にはあちこちに計画があるのですが、フェイスブックでは、「自然を破壊する風力発電は反対」とすべてに反対の意見を掲載される方もありました。
新聞紙上でも、下記のような、各地の計画の反対運動の記事が出ました。
・風力から命を守る全国協議会結成 国の政策変えるネットワークに 地域のエネルギーのあり方も提言 (2022年5月24日長州新聞・社会)
・陸上の巨大風車建設、強まる逆風 騒音や景観懸念、住民ら反対運動 拡大へ洋上に活路 (2023年5月1 日 神戸新聞NEXT)
・私たちは、なぜ今も、風力発電計画取り止(や)めを言い続けるのか「子どもや孫の世代によりよい自然環境を残すため、風力発電建設計画の問題点を考えてほしい」と呼びかけている。(2023年11月20日 朝日新聞デジタル)
・北海道 タンチョウ営巣地付近での風力発電計画に反対する署名提出 (松本英仁2024年8月7日) 北海道の道央地域で繁殖する国の特別天然記念物タンチョウの見守り活動などを行う市民団体「ネイチャー研究会inむかわ」(小山内恵子会長)が6日、大阪ガスの子会社が苫小牧市と厚真町で計画する風力発電事業の中止を求める署名9503筆を両市町に提出した。
撤退もありました。
・住友林業が津市白山町で進めている風力発電計画を取りやめることが分かった。建設中の2基の風車は撤去する。 (日経XTECK 2023.01.30)
・関電に続き日立造船やオリックスも、風力発電「中止ドミノ」 (日経XTECK 2022.08.22)
5.反対運動をどう考えるか。
この状況について、風力発電計画は、陸上は山の上が多く、問題が多いので、洋上が良いという見方が多く聞かれ、結局、国が目標を立て、企業が計画をたて環境影響評価をし、市民、自治体は反対し、そして企業が撤退することが繰り返されているように思います。 莫大なお金、時間、労力をかけながら、無駄に使っているのではないかと思いました。「再生可能エネルギーの普及ができない」理由をつくり、「原発、化石燃料、その他」を進めることを、実は、国は狙っているのではないかとも思うぐらいです。 本当に普及を確実にしようとするなら、計画が進まない理由について、対策を立てるべきではないかと思います。再生可能エネルギ-先進国である、デンマークの進め方から学ぶことがあると思います。
6.国の対策は?
① 企業が計画する風車へ、市民出資や、市民参加する 。
市民が、再生可能エネルギーのすべてを担うということではなく、企業が計画するにあたって、地元枠を設けて地元の参加を義務付ける、もしくは、地元とともに進めることで、実現可能性も高まるという視点で提案をする事はできないかと思います。 デンマークでは、農地法との関係では,農場地主には 自己の農地に風力発電機 1 基を建てる権利を認め,また,風力発電機の設置を目的とした 農地の分譲を認めています。また都市の住民の風力発電所への投資者資格では、「風力発電所への投資者は共同所有者を含め 同市町村に過去 10 年間で最低 2 年間居住した成年であること,給与所得者または自営業者として過去 2 年間同市町村に居住した者」 と規定し,このことで,デンマークでは風力エネルギーは地元のエネルギー資源および資産とし住民の投資を促し,風力発電所が国内外からの投資対象にならないよう制限しています。
② 風力発電を建設する場所のゾーニング
政府の進める市民不在の風力発電計画の「あたって砕けろ方式」で、再生可能エネルギーを2030年にまでに現在の2倍以上という目標を達成できるのか疑問です。今までのように結局は「計画倒れ」ということになりかねません。本当に実現を目指すなら、無駄のないやり方で、進められるように法律も、検討するべきではないかと思います。日本では、乱開発を防ぐ抑制地域条例を作っている自治体はいくつかあるが,岩手県や浜松市のように促進地域のゾーニングを行っている自治体はまだ少ない.これからの課題であると言われています。 風力発電の先進国デンマークでは、風力発電所の設置場所に関して「建築法」「土地分割法」「環境保護法」「環境保全法」「自然保全法」「航空法」「電波通信法」「農地法」などの法律を整理し,風力発電所を設置して良い場所と設置してはいけない場所(ゾーニング)を早い時期に示しているとのことです。 そして、そのうえで風力発電所は、「電柱」と「航路標識」と同一扱いとしたとのことです。その他詳細に決められていて、発電機の仕様書などの添付書と建築許可申請書を市町村へ申請し、受理した市町村は、「建築法」で規定されている高さ、住宅までの距離などの条件を満たしているか審査を開始し4週間後、アトム(県)へ送り、設置場所について審査する。その審査内容を公開・公示し、4週間の苦情の申し立てを受けるとのことです。
7.おわりに
「エネルギーの未来は、国まかせにせず、市民が主体性を持って関与する」ことでこそ「普及」につながると言えます。 原発、火力発電が身近に建設されることは、建設、稼働において、これまでの公害問題、温暖化ガス排出があり、反対することの意義は大きいと思いますが、風力発電は、人類絶滅の危機から、脱炭素社会に貢献することは確かであります。 原発、火力発電と同じ視点で反対することは、結局、原発、火力発電を肯定することにつながると思います。

英国がイギリス東部ヨークシャー沖に建設している巨大洋上風力発電所プロジェクト デンマークの国営電力会社DONG Energy