■ 今回の掲載は 、当研究会の 河 野委員長が大学で教鞭をとっていた時の教え子である T.S 氏から寄せられたものです。委員長の要請に応え てくれました。
2024.5.22 受理
とある公務員の話
市役所勤務 T.S.
先日(といっても3か月ほど前ですが)、大学・大学院時代にお世話になった河野先生(JSA-ACT委員長)からホームページを立ち上げたので、寄稿文を書いてくれないかとのお話をいただきました。社会に出てから16年(4年ほどフリーターでしたが・・・)、今は公務員として働いています。難しい文章など卒業論文以来書いたこともなく、お断りしようとしていたらなんだかおだてられてしまって、せっかくの機会でありますしお受けした次第であります。
とはいえ、どんな内容を書けばいいのか・・。というのも、大学院時代は地球温暖化に関心はあったし、風力発電の適正な立地条件の研究をしていたりで、そこそこ浸かっていたわけですが、社会人になってからというもの関心が薄れてしまって、地球温暖化問題を身近に感じるのは、ゲリラ豪雨の時くらいになっています(しかし、今でも風車をみると多少テンションは上がりますが)。読んでくださる方の中には行政と関わりを持たれる方もいると思います。詳しいことは語れませんが、一公務員の思うところを書いてみて、読んでくださる方の少しでも役にたてれば幸いです。
○自己紹介
私は、某中核市に勤める市役所職員で12年目です。もうすぐ第1子を出産予定で、産前休暇をとっています。管理職ではないですが、中堅職員で、ようやく役所の仕事を客観的に考えるようになってきました。
大学時代は、風力発電の設置場所にデータ解析をやっていました。一番印象に残っている河野先生の教えは、物事の本質を見抜くことという教えで、学生時代は、ニュースからも見抜けるようになれと言われたときに、そんなことはできないと思っていましたが、不思議なもので、40歳目前にやっとそういう風に見れるようにもなってきました。
○市役所でのこと ①図書館の建設
公務員になった私の3つ目の異動先が図書館でした。全国的に耐用年数が過ぎてきたことや耐震対策により各地で建て替えがよくあり、私の市でもそういう話が出てきたときの異動でした。
公立図書館というと、大方の共通認識は本を借りることのできる施設であると思います。それ以外は個人差があるような気がします。じめじめした、薄暗い、静寂というイメージを持つ人もいれば、明るい、おしゃれ、居心地がいいというイメージを持つ人もいると思います。同じ機能を持つ施設なのに全国には色んな形の図書館があることを知り、興味深かったです。
私の生まれた町には町営の図書館がありましたが、公民館と併設されており本の冊数が少なかった(蔵書数約3万冊)ですが、それ以外の図書館を知らないと、その蔵書数でも充分に感じ、背表紙を読むだけで、知的好奇心が刺激されたことを覚えています。今となってみると図書館における地域格差というのがあって、各自治体によって、重要としている施設か否かというのが見えてきておもしろいものです。
地域格差といえば、図書館勤務時代、新婚旅行で北欧に行く機会があったので、スゥエーデンでふらっと市立図書館に立ち寄りました(特段、有名な図書館ではない)。図書館見学に行こうと思ったのは、北欧の図書館は日本よりも発展しており(施設も運営も)、見習うところがたくさんあるからです。内装はカラフルでインテリアも北欧らしく、おしゃれな図書館というのが第一の印象でした。それよりも驚いたのは、開館時間よりも早く行ったのにも関わらず扉が開いている! 職員と同時にその扉を通り、見学させてほしいと伝えるとノープロブレムとの回答。日本だったらそんなことありえないのでは・・と考えながら、ありがたく館内を視察。親子連れもすでに入っていて、絵本を読んだりしています。おそらく、貸出ができるのは開館時間以降だが、職員がいて開いているなら本は自由に見ていいよというスタンスが基本的なのだろうと感じました。日本でそんなことをすると、発生する問題の責任はどうする、何か(ネガティブな)あったときどうだとかを考えて、またルールができてしまう。こうゆう柔軟さ、羨ましくも思ったり、お国柄を感じたり。地域格差に通ずるものがあるなぁと感じた新婚旅行でありました。
今ある環境がスタンダードではないということを感じた図書館時代でした。
○市役所でのこと ②農林水産関係
そんなこんなで、気が付いたら新しい図書館が開館して1年が経ちました。これから運営内容の充実を図るぞと思っていた矢先、人事異動で農林水産関係の部署に移りました。部署の人のほとんどは専門職(土木職)。私の仕事は予算関係などの事務的なことですが、課の主な仕事は農道・水路・ため池の工事・修繕や農業施設の災害対策です。
この課で太陽光発電と関係のある業務がありました。太陽光発電施設を作るときには県か市の許可が必要ですが、課が管理している水路等ある場合は、許可申請者と協議することとなっていて、年に数件、太陽光発電の業者等とのやりとりがあります。こちらとしては、大学時代、地球温暖化を学んだ身ですので、太陽光発電の話には多少興味があります。太陽光発電の許可を出すのは別の課ですが、こちらの課でその業務に携わっている職員はあまり太陽光発電に関していいイメージを持っていませんでした。それは、設置計画場所の地元の反対が大きな原因だったりします。また市として太陽光発電導入に積極的か積極的でないかの明確な方針・施策がないのもマイナスの感情を産む原因としてあります。そういうところに行政のもどかしさを感じます。数字だけでは意思決定ができない。多くの立場の人の感情を汲み取りつつ最適解を出す作業。数字だけをもとに進めていくことはできず、答えのない判断に日々直面します。いろいろ試してみて、トライ&エラーを繰り返し、施策を実行できればよいのだけれど、どうも失敗してはいけないという風潮がとてもあります。
ただ、公務員は、ニュースなどで叩かれることも多いですが、意外とアンテナが高くいろんな情報を収集している人が多いです。太陽光・クリーンエネルギーについて同部署の先輩に意見を聞いたら、地元で会社を設立して利益を上げている事例を知っていたり、太陽光の問題点はソーラーパネルの処理をどうするかであったり、こちらが聞けば聞くほどいろいろな情報が出てくる。人によるところは大きいと思いますが、行動を起こしていないだけで、真剣に市の将来を考えている人が多いように思います。
○市役所でのこと ③スタンダードスキルにデータ解析!
市役所は色々な計画をたて、それに沿って事務を行っています。私も何個かの計画の立案に携わりました。計画を立案するうえで、基本的な事の一つは、現状値と目標値の設定に色んな要素を足しこむことだと考えています。そこで、重要なのは現状を客観的に捉えられるか、目標値を目指すために何をするのか・実現可能な目標値なのか。どの時間軸(立案時~実行期間)での仕事でも必須なのは、データ解析だと思っていますが、できる・できないの個人差が激しい現状です。市役所の入庁時の試験で、法律や経済学はありますが、統計学はなかったように思います。今後必要なスキルになるのではと考えていて、産休中にひっそりと勉強しておこうと思う今日この頃なのでした。

槍ヶ岳 Photo by H.K 2023年6月